「a quiet day」ep1
”北欧のクリエイターたちが語る言葉が生きるヒントになる”

photo by a quiet day

 「a quiet day」は、北欧で活躍するクリエイターたちの創作へのこだわりや思想をインタビュー形式で伝えるインディペンデントマガジンとして、2015年12月に創刊された。

 編集長である岩井謙介さんが北欧の地で感じた心地よい空気感や温度感を紐解くため、毎号一つのテーマをもとにさまざまな角度からその魅力を探っていく。誌面にはクリエイターのリアルな言葉と北欧の美しい光を纏った写真が綴られており、それが私たち読者の心を掴んで遠い異国の地・北欧へと解き放つのである。

初めて旅した北欧の地の空気感に魅せられる

 岩井さんがこれほど強く北欧に惹かれたのは、就職活動の真っただ中に手に取った1冊の本「北欧流ブランディング50の秘密 現代のバイキングたちの世界戦略」がきっかけだった。その一冊は日本よりも人口の少ない北欧諸国がどのようにして世界に対して影響力を誇示していったのかということをマーケティングやブランディング目線でまとめられていたもの。

 確かにたとえばスウェーデンなどはイケアやH&Mなどの世界展開企業が排出されているほか、ノーベル賞といったアカデミズムの権威なども有している。当時マーケティングやブランディングに関心があった岩井さんは興味深く読んだそうだ。そして無事に就職先が決まった岩井さんは、社会人になったら長期休みが取れないだろうと一念発起。初めての一人旅、しかも海外旅行を計画した。その行先は・・・北欧の地・フィンランド。

「そのときは飛行機すら乗ったことがなかったんです(笑)。でも、初めてフィンランドの空港に降り立って、その瞬間から空気感が違うと思いました。すごく自分に合ったんです」

 すっかり一人旅にはまった岩井さんは、その後もバイトをしてお金を貯めてはヨーロッパを旅するようになっていく。たとえば、本場のワッフルを食べようとベルギーに行ってみたり、美しい夜景を撮影するためにチェコを訪れてみたり。そのほか、オランダやイギリスにも行ったし、サークル仲間との卒業旅行ではフランスやスペイン、イタリアも旅した。

「でも、やっぱり自分の感覚に一番合ったのは、北欧の温度感や空気感だったんです。じゃあ、それはなぜなのか。僕がa quiet dayを始めたのは、なぜ北欧に惹かれるのかという問いや探求心からです。
 僕はそのために北欧と日本を行き来し、その考えをa quiet dayを通して言語化しているような感じ。その中の言葉のどれか一つが誰かの気持ちをラクにしたり、背中を押したり、何かの役に立てたり、といったきっかけになれば嬉しいなと思っています」

北欧をテーマにしたマーケットの開催がマガジン誕生のきっかけ

photo by a quiet day

 創刊号から企画、インタビュー、ライティング、撮影、編集、さらにはデザインまで、岩井さんは1冊のマガジンに仕立てる作業を一人でこなしてきた。それまで編集はおろか、マガジンづくりの経験もなく、しかも、始めたころは出版業界とは縁遠い普通の会社員だったというから、その行動力には舌を巻く。

「それは経験者じゃなかったからできたのでしょうね。今だったら無謀だと思うし、誰かに任せたほうが早いと思う。今でも1冊作り終えると『ああ、こうしておけばよかった』と改善点がいつも必ず見つかるんです。だから、作り続けていくことで少しずつブラッシュアップしている感じですね。たぶん、ずっと読んでいただいている方には『おお、こいつ進歩しているな』って分かるんじゃないでしょうか(笑)」

 興味深いことに、a quiet dayを立ち上げたのは、東京・青山の国際連合大学前で毎週末開催している「青山ファーマーズマーケット」との共同イベントがきっかけだった。岩井さんは同ファーマーズマーケットのチームとタッグを組み、日本にいながら暮らしの豊かさとは何かを北欧の視点で考えるきっかけを作る場として「Nordic Lifestyle Market」を企画・開催したのである。

 そして、第1回目のイベントに合わせてa quiet dayは創刊され、その後もマーケットの開催のたびに新刊を発表していった。

「北欧から暮らしの豊かさを考え続けていくマーケットにしていくなら、イベントがある2日間だけで終わってしまうのはもったいないですし、マーケットが終わった後もしっかりと手元に残るマガジンを作りたいなと思ったんです。同時にそういったことが好きな方がマーケットに集まるわけですから、マガジンとしてもミスマッチが起こらないのかな、なんて。
 毎回そんな感じでイベントとマガジンを作り続けていたら、Nordic Lifestyle Marketでの常連さんやa quiet dayの読者だった方たちが、今のa quiet dayの制作にも携わってくれるようになったんですよ」

取材はあくまでも関係性のファーストステップにすぎない

 岩井さんがマガジンという形態にこだわったのは、ウェブよりも手触り感のあるほうが読み手に感情をストレートに伝えられるのではないかと思ったからだ。またスペースに限りのあるマガジンは、ウェブと違って載せられる情報に限りがある。つまり写真や言葉は必然的に厳選せざるを得ず、それが感情をより強く伝えることにもなると岩井さんは話す。

photo by a quiet day

 また、a quiet dayは制作過程でも注目すべき点が多く、その一つが取材の進め方にある。誌面に登場するクリエイターはほとんどが人づての紹介だというが、岩井さんはできる限りクリエイターたちの心のうちをありのままに伝えたいという思いから、インタビューでもひと工夫しているという。

 それは、まず初対面ではじっくりとコミュニケーションをとり、お互いに大事にしていること、考えていること、興味があることを理解し合うことに終始し、共通の問いやありたい未来について語り合うといったように、対面時には形式ばったインタビューなどは一切行わない。

 そして、関係性ができあがったところで、後日、改めてメールインタビューを中心に回答してもらう。というのも、いくら友人や以前取材したクリエイターからの紹介といっても、突然現れた岩井さんによる禅問答かのような問いに、そのクリエイターがその場で考えをまとめ、口頭で100%伝えることはできないだろうと思ったからだそう。

「僕は彼ら、彼女らと取材だけで終わるような関係にしたくなく、この取材をきっかけに一緒に何かを作り出したり、深い関係を築きたいと思っています。この取材で日本の方たちにクリエイターたちの考えや視点を知ってもらい、小さいけれどa quiet dayのオンラインショップでプロダクトを販売し、それをクリエイターたちの代わりにa quiet dayが伝えていく。
 a quiet dayで取材するのは、そのためのファーストステップであり、プロセスの一つでしかありません。その先にあるもっと大きなゴールを一緒に探していく感じですね」

photo by a quiet day

 ともに考える―――。そのためにはクリエイターたちが興味を引いたり、考えてみたくなるような問いを投げかけなくてはならない。そして、クリエイターたちが考え真剣に導き出した答えは、よほどのことがない限り手は加えず、ありのままを読者に伝えているそうだ。

 その想いは写真も同じ。岩井さん自らカメラを構え、取材するクリエイターたちのポートレートやアトリエ、景色などを写していくが、補正などの写真加工もしないという。

「取材のときは、頭の中で編集や構成を考えながら歩いていたり、会話をしているので、カメラを構えたときにはページレイアウトはほぼ決まっています。だから、余分なカットがそんなにないんです(笑)。また写真の補正をしない理由は、北欧の光がきれいなことも大きいかもしれません。どこを撮ってもいい写真になるんです。しかも、北欧の方たちは流行やトレンドに流されず、自分の好きなものをしっかり分かったうえでものを選んでいる方が多いので、その空間を撮るだけでその方自身のニュアンスがちゃんと伝わってくるんです」

Infomation

Web:https://aquietday.jp/
Instagram: @aquietday
Twitter:@aquietday_jp

ep2に続く

PAGE TOP