旅好き大注目のインディペンデントマガジン「LOCKET」

姿なき価値観、主観的な真実を追いかける“独立系旅雑誌”

2015年に創刊。年に一回ペースで発行されている「LOCKET」は、毎号一つのテーマをもとに国内外を取材、バラエティに富んだ内容をグラフィカルに伝えている”独立系旅雑誌”。何と言っても特異なのは、旅雑誌であるものの毎号特定の場所を掘り下げるのではなく、テーマに沿って様々な場所を取り上げていること。第一号目は「しあわせのありか」、二号目は「徒歩旅行」、三号目は「朝日の光源」と、切り口も様々だ。

 毎回デザインに合わせてロゴも変えてしまうなど、柔軟な発想で編集されているのは編集者とデザイナーがまだ20代と若手だから。……と年齢で括ってしまうのは早計。きっと彼らが考えているのは、どうすれば自分たちの表現したいカタチになるかだけ。その結果としてインディペンデント精神が感じられる雑誌が出来上がっているだけなのだろう。

作家で写真家の石川直樹氏の寄稿ページ。著名作家だが、誰もコーラをテーマに原稿を依頼した事はなかっただろう。

vol.4は「コーラ特集」。世界に浸透している炭酸飲料を通じた旅のお話

2020年7月に発売した最新号はみんなが大好きな「コーラ」がテーマ。

 世界で最も有名な炭酸飲料コカ・コーラは、北朝鮮とキューバを除く全ての国で流通している。その意味は、文化や言葉は違えど、この地球上のほとんどの場所ではコーラが飲まれていてそれぞれにストーリーがあるということ。これはこの号に限った事ではないが、画一的なものをテーマに選ぶ事で、それを軸に各々の差異を浮き上がらせているように思う。

 ロングトレイルを歩くハイカーにとっては思いこがれる自分へのご褒美。見方によっては資本主義やグローバリゼーションの象徴。またある人にとってはそれらへのアンチテーゼの象徴。主観性を客観性を内包した一冊の中に、自分の感じたことのない各々のコーラ観を見ることができる。

特集の頭、チュニジアの記事ではコーラとグローバリゼーションについて語られる。

 COVID-19の影響で全世界的に渡航規制が始まるなか、ギリギリのタイミングで取材を終えることのできたというニュージーランド、ロシア、チュニジア。そして日本。編集長の内田洋介さんが現地に足を運んで、フィルムカメラを片手に旅をしながら取材。そして執筆まで手がけた記事の数々は、ただの風景描写ではなく考察が入った情景描写。旅の情緒をさらりと表現している。

 読み手を引きつける一方的な目線の編集は自主出版物の醍醐味である一方で、自分本意なものと紙一重でもある。しかしその点、「LOCKET」は独自取材以外のところで執筆陣をバランスよく采配した「雑誌らしい」作りで読みやすい。「コーラを読む」と題されたコラムパートでは、バックパッカー的目線、社会学的目線、アート的目線、味覚的目線からコーラについて語られ、どれも知ってそうで知らない内容が盛りだくさん。最後の一滴までしっかり美味しく読み干せるのだ。

二色刷りの読み物ページ。コーラを多角的に紐解いている。

 今号で触れているのはコカ・コーラのみならずペプシや各国でローカライズされたコーラ、じわじわと人気の高まっているクラフトコーラまで話題も多岐にわたる。こんなの、コーラ片手にのんびり読書にふけるしかない。

Infomation

「LOCKET」vol.04 ¥1,760
Web: https://locketmag.com/
Instagram: @locketmag

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