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前回のエピソードでは、『LOCKET』がどのような経緯で生まれ、どんな思いで読者に届けられているのかをお伝えした。引き続き今回の記事でも編集長の内田洋介さんに気になっている疑問を投げかけ、雑誌作りに対する想いについて話をうかがった。
写真へのこだわりも我々を惹きつける理由の一つ
今や多くの商業誌が広報写真や過去写真の使用を当たり前としている中で、『LOCKET』の誌面に掲載されている写真は基本的にすべて撮りおろしだ。しかも、撮影はほぼフィルムカメラで行う。その理由を尋ねると、内田さん自身の旅の記憶が少なからず影響しているとのことだった。
「もともとは石川直樹さんが好きだったこともありますが、もう一つはその場で映りがすぐに確認できてしまうデジタルカメラがあまり好きではなかった。これまでの旅の思い出を振り返ってみても、風景を見るよりもカメラの液晶画面を見ているほうが長かったり、あるいは記憶にある風景がデジタルカメラの液晶越しだったりで、それがずっと嫌だなって思っていました。あとフォトグラファーではないのでレタッチの知識もそれほどないですし、よりカメラのチカラを借りられるものがフィルムだったというのもあるかな(笑)」
現在の愛用機種はプラウベルマキナだが、当初使用していた2眼レフカメラでは苦い思い出も。なんでも創刊号の取材旅でブータンに陸路入国する前、移動中のインドでリキシャが衝突し、カメラのシャッターボタンが壊れるというアクシデントが発生してしまった。帰国後、フィルムを現像してみると100枚ほど撮ったはずなのに、たった2,3枚しか写っていなかったそうだ。さすがにこのときは落ち込んだそうで、気が付くと家とは反対方向の電車に乗っていたと内田さんは笑う。
そして、印刷へのこだわりも『LOCKET』ならではだろう。3号ではコデックス装という製本様式を採用し、表紙にはプラスチックカバーをかけた。第4号では製本前の表紙にコーラのイラストを一つひとつガリ版で刷るという凝りようだ。
「3号は商業誌ではできないことができた嬉しさの反面、少し雑貨っぽい感じが出てしまったので、4号はより雑誌感のあるテイストにしようと思いました。でも、それだけでは商業誌とあまり変わらないから、少しでも多くの人に気に留めてもらうためにガリ版を採用しました。今回印刷をお願いした長野県松本市にあるの藤原印刷さんはとても協力的で、初めて印刷立ち合いもしました。僕は必ずしも、発行部数イコール雑誌の発信力だとは思っていません。それよりも、どれだけ自分たちの想いを雑誌に込められるかが重要だと考えているので、最後の印刷まで自分が全部関わってたいと思ったんですよ。結果的に印刷コストは上がりましたが、僕の中では納得できる仕上がりになりました」
アンチ商業誌というわけではなく、自分がやりたいと思ったことが今の形になっている
誌面に綴る文章や写真、判型、印刷など揺るぎないこだわりがある一方で、各号のテーマやデザイン、タイトルロゴなどはあえて決め過ぎず、その時々で柔軟に考えているという。それも定期的に発行する商業誌ではなく、不定期に発行するインディペンデントマガジンだからこその面白みだと内田さんは話す。
「僕が『LOCKET』を続けるのは、作るのが楽しいこともありますが、年1回、僕自身の力量やレベル、成長を確認しているということもあるかもしれません。25歳の自分はこれくらいか、28歳の自分でこれくらいかと。だから、僕は1号よりも2号、2号よりも3号と、クオリティも売り上げも発行部数も少しずつ改善していきたい。だけど、いつまでもそのスタンスではいけないとも思っていて。ちゃんとそろばんを弾いてこそ、いい仕事だと聞くので、今後は『LOCKET』とそれ以外の仕事でどうバランスをとっていくのか、それが今の僕の課題だと思います」
インディペンデントマガジンとして収支が安定するために、企業から広告をとることも考えられるが、そこはまだ媒体の価値がないと内田さんは謙遜する。
「僕は商業的な仕事もしているので、広告がNGとは考えていません。今は単純に広告を出す価値が媒体にないだけ。実際に広告のオファーがあったらウェルカムです(笑)」
それでも3号は発行部数1000部を半年で売り切り、最新号は2000部を半年で9割消化するほどの実力を持ったインディペンデントマガジン。それは内田さんの過小評価では?
「自費でやったほうが、何事もメッセージ性は強くなるのかなという気持ちもありますね。今、読者の皆さんに好意的に受け止めていただいているのも、広告なしで自費出版という、そのピュアさを気に入ってくださっているというのもあると思うんです。今後、クオリティが上がって評価してもらえるようになれば、そのピュアさを消してもまだ受け入れてもらえるのかなと思っています」
発行が待ち望まれているvol.5は……
世界的に新型コロナウイルスが大きな影響を与えている今、このまま海外への渡航が厳しい状況が続けば、旅雑誌として次号の発行はどうなるのだろう。
「旅に出られないのは、本当にツライですね。次号に関しては、商業誌ではないので無理して出す必要はないと思う気持ちと、一方で編集者として作り続けないと意味がないことは分かっているので、今は状況を見つつ考えています。ただ、僕は旅が好きだし、多少の経験もあるから、その点では商業誌と勝負できると思っているので、これからも旅は続けていきます。でも、先日も書店の方に『インディペンデントマガジンは増えているけれど、売れているわけではないから』といわれたので、決して、インディペンデント系の未来が明るいわけではないと思います」
内田さんは最新号で「なぜ、雑誌を作るのか」をこう記している。
「キミに伝えたいことがあるからだ。世界の主観的な“真実”のようなものを、臨場感のある言葉と美しいフィルム写真でキミに届けたいからだ」
編集者であり、旅人である内田さんが魂を宿す『LOCKET』はまだまだ旅の途中。これからも多様な世界、文化、人々の営みを多くの読者に伝えていってくれるはずだ。
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Web: https://locketmag.com/
Instagram: @locketmag