創業50年! 自主出版物書店のパイオニア 「模索舎」 を訪ねる

日本全国のリトルプレス(ミニコミ、ZINE、同人誌、機関紙、フリーペーパーなどの自主出版物)を取り扱う書店を紹介する「Book Store」のコーナー。記念すべき第一回は、自主出版物における最古参と言える書店「模索舎」にお邪魔し、舎員の榎本さんにお話を伺った。

学生運動の残り香がする、カオスな店内

アングラな雰囲気を漂わせるフライヤーの隣に、さりげなくかかった入口の下げ札。「恐れることはありません」との文言によって、逆に躊躇しないでもない。

 模索舎の創業は1970年。「魂に触れる革命」(津村喬 著 ライン出版)という書籍の流通を巡り、表現の自由を保障する場所として学生らが興した、スナック併設の小さな書店だった。当時は、学生運動が盛んだった60年代を経て、あさま山荘事件などを機にそれらの活動が下火になり、運動のパワーの矛先がミニコミと呼ばれる自主出版物に向かった時代。そんな折に新宿御苑の近くにオープンした模索舎は、政治に関心を寄せていた若者や、カウンターカルチャーを思考する若者たちで溢れていたという。

 それから50年以上もの間、場所も変わらず営業を続ける同店は、ある意味で日本の表現の自由を守り続けている場所と言える。出版不況が常態化している昨今においても、創業当時と変わらぬ姿勢のままに、ファンに愛され続けているのだ。

模索舎の舎員・榎本智至さん。後ろに見えるスーパーカブにまたがり、週一回、自ら出版社や神保町の卸書店に出向いて新刊書籍の仕入れを行なっているという。

 2009年より舎員務めている榎本さんは、元々は10年ほど模索舎に通っていた常連の一人。縁あってこの職に就き、長年続く模索舎イズムを今に引き継いでいる。

「模索舎はカウンターカルチャー系の書籍が多く、政治運動、人文系、エンタメ、カルチャー、マンガなどのジャンルを中心に取り扱っています。政治系で言えば右左別け隔てなく取り扱っていますが、特に新左翼の新聞や機関紙、パンフレットなど、社会運動絡みの印刷物はの品揃えが豊富ですね。昔はいくつか他にもありましたが、ここまでちゃんと取り扱っている書店は全国的にもウチぐらいになってしまってしまいました」

 同店では自主出版物を多く取り扱っているが、よほど差別的だったり倫理に反したものでなければ、無審査で取り扱うという姿勢を貫いている。なぜなら、思想も宗教も趣味趣向も関係なく、表現者の自由が確保するというのが模索舎のポリシーだから。表現の自由とメディアの在り方を絶えず模索し続けてきた結果がこの店であり、それゆえ唯一無二の書店を形成しているのである。

新左翼系の新聞や機関紙が所狭しと並んだ棚の一部。なかなか知ることのない世界だが、定期刊行物として何十年と続いているものも少なくないというから驚き。今では運動団体自体が減って刊行物も減少傾向らしいが、創業から変わらず特定の根強いファンがいるのだ。

書籍などは、店のカラーに合わせて品揃え

右に見えるインディペンデントマガジンの「LapH」は、もともと女性だった男性たちを主軸においた雑誌。「うちは新宿二丁目に店を構えていることもあり、LGBTQをテーマにした書籍やミニコミも扱うようにしています」

 模索舎の店内は大きく分けて2つのブロックに分かれている。入り口からレジまで抜ける、手前側の通路が漫画や映画、演劇、音楽を始めとしたカルチャー系。レジに向かって店内左奥には、社会問題・政治系の本が陳列されている。全体の割合で言えば、出版社から発行された書籍が7割程度、残りが自主出版物といったところだそう。

「書籍に関しては一般的な新刊書店と違って、出版取次(書籍・雑誌の卸、流通を担う仕組み)から自動的に本が納品されるのではなく、自分たちで模索舎のカラーに合わせて一冊一冊買い付けています。逆に言うと、大きい出版社の本や一般的なベストセラー本の取扱いは基本的にありません。うちで扱っているのは直接取引に理解のある出版社のものや、作家さんのものですね」

 一冊一冊セレクトされた本、もしくは出版者と顔を付き合わせて委託に至ったミニコミ、ZINE、リトルプレス。どれ一冊として榎本さんが知らない本はない。それだけに訪れたお客さんも(そういうお客さんが集まるのかもしれないが)じっくりと本棚とにらめっこして、気になるジャンルの棚を端から端までチェックする。他の本屋ではお目にかかれないものもあるから、滞在時間はどうしても長くなるだろう。

自主出版物への展望

レジ正面には、サブカルな漫画や判型の小さいZINEを並べたコーナーが。右に見える木製の本棚ははるか昔にDIYされたもの。判型もバラバラで薄いミニコミを平置きにして、引き出して読めるようにと設計されたのだとか。

 店員として12年、お客さんの時代からみれば20年以上に渡って模索舎を見てきた榎本さんに、自主出版物の動向について聞いた。

「70年代のミニコミブームに端を発して、頻繁に自主出版物が人気になるタイミングはありました。近いところだと10年前ぐらいに評論同人誌やミニコミの数が増えましたし、5年ほど前からはZINEも多くなりましたね。常にインディーズマガジンというのもありましたが、業界の人が商業誌っぽく作っているという意味では今は盛り上がっていると言えるんじゃないでしょうか。ただ、個人単位で作っているものは途中で突然新刊が出なくなってしまうことも多いので、書店としては皆さんが長く続けてくれることを願っています(笑)。

 直近の自主出版物に関しては、やはりコロナの影響もあり新刊が出るペースが鈍化しているかもしれません。多くの作家さんは文学フリマやコミケなどの即売会に合わせてミニコミ、同人誌を出すことが多いのですが、イベント中止の影響が大きいですね。ただ、コロナ前は即売会も増えていたと思いますよ。駅や商業施設で一般的にな層に向けての自主出版物を販売するイベントも増えていましたし。一過性のものかわかりませんが」

定期刊行物が並ぶレジ横の棚は、雑誌タイトルを眺めるだけでも内容の濃さが伝わってくる。

 模索舎自身も、パンデミック以前は月に1回以上のペースで出版イベントやトークショーを開き、お客さんとの交流の機会を作っていた側。2020年に創業50周年を迎えた模索舎だが、変わらぬ姿勢を貫きつつも時代に合わせて変化が必要なのだと榎本さんは語る。

「ミニコミを作っている人たちも最近ではアマゾン経由で販売していたり、BOOTHで販売したり、ホームページで直販したりと、インターネットを介した販路も増えてきています。私たちもweb通販をやっていたのですが、今はシステムのリニューアル中。まずは店でできることを続けています。幸いお客さんは『あの本が置いてあるから』と、お目当ての本を目掛けてやってきてくれるので有難いですね」

 昭和、平成、令和。時代もお客さんも変化するが、創業当時からのポリシーは変える事なく営業を続ける模索舎。インターネット書店と実店舗での買い物の仕方はきっと異なると思うが、「本に出会う」という楽しみ方でいったら、断然、後者の方が大きいのではないだろうか。

「あとはお店をいかにして継続して行くかというところですね。お店は半世紀続いてますが、家賃もそれなりにかかりますし。出版業界も厳しいので(笑)」そう嘯く榎本さんだが、その肩には模索舎50年の歴史を背負っている。


 新宿御苑の脇にある本好きのワンダーランド。この眠たいコロナ時代を蹴り飛ばしてくれる、珠玉の本たちがあなたを待っている。

榎本さんがオススメする模索舎らしい自主出版物

ストリップ、演劇、落語など、毎回違うテーマをもとに編集する「Didion」。有名なラッパーやアーティストをはじめ、豪華な出演者でも話題だというタトゥー「SUMI」。バイク乗りたちを独自の視点から紹介していく「君はバイクに乗るだろう」など、若者に人気のインディペンデントマガジンも多数。
模索舎のベストセラーの一つだという「救援ノート」 (救援連絡センター刊) 500円。「社会運動をしていて逮捕された時にどうすれば良いのかを解説した一冊で、40年以上にわたりアップデートされています。最近は社会運動関係者以外の方たちにも知られてきているみたい。意外とこういう本ってないんですよね」

Infomation

模索舎」
住所:東京都新宿区新宿2-4-9
営業時間:13:00〜21:00(日曜・祝日のみ〜20:00) 定休日なし
電話番号:03-3352-3557
URL:http://www.mosakusha.com/
Twitter:@mosakusha

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