インディペンデントなモード誌「PLEASE」
一人の編集者が世界を変える?

ファッション誌のゲームチェンジャー

マガジニスト北原徹が編集、ライティング、写真撮影までを一人でこなすPLEASEは、グラフィカルな写真で構成される独立系モード誌。写真を大使いしたインパクトのある誌面は、スマートフォンの小さな画面から情報を受け取るようになったファッショニスタの目を見開かせる。

 2016年春の創刊以来、年二回のペースで発行。毎回独裁的なまでに個性を発揮した誌面は、媚びる事なく、説明的でもなく、わかりやすくもなく、お利口でもない。

「Fashion is Life」

とのキャッチコピーが踊るvol.15は、2021年の3月に発売された最新号。表紙に女優の南沙良さんを据え、中面でもパンキッシュなコーディネートページを設けた。

「SWAYING AGE ROLLING AGE」と題されたコーディネートページでモデルを務めた南沙良さん。今回のテーマは「PUNK ELEGANCE」で、スタイリングはスタイリングは伊島れいかさん。

 同誌といえば二階堂ふみさんや、当時E-girlsだった坂東希さんなど、これまでにも数々の著名人をモデルとして起用してきたが、それは話題作りというよりも、モデルとしての意外性を読者に示すことに重きが置かれているのだろう。どちらかというとアヴァンギャルドなイメージがない彼女たちにモデルとしての魅力を見出し、ファッションストーリーを見事に組み立てている。

 PLEASEが見せようとしているのは、物質的な洋服そのものではなくファッションの可能性。インディペンデントかつアナーキーな姿勢で作られる同誌は、ディレクターである北原さんの信じるものが投影されている。

COMME des GARÇONS 2021 S/Sコレクションのランウェイを写したページ。「北原ブラー」(ブレ・ボケ)が感じられる写真の中にも、透明感のある素材感やシルエットを表現。「実際の服だけ見たいなら、コレクション雑誌やwebをどうぞ」とのメッセージか?

「普通、雑誌は何人ものスタッフが関わることによって多角的な見方を生み出し、誌面に奥行きを生んでいます。でも僕はそれがめんどくさいし、僕自身の興味のベクトルを変えることで変化を作れるものと思っています。だから一人で『雑』誌作りができるんだと思う。カメラに対しても多重人格だし、企画ごとに自分で違う引き出しを作れると思っています」とは北原さんの弁。

 大人数で編集部を構えて作られることが当たり前のファッション雑誌の業界は、企画一つにも何人もの人の意見が入り、表に出すまでには何重もの許可が必要だろう。ましてやクライアントのいる案件では、突拍子もないことが許される土壌はない。その点で言えば、他の出版社が作るファッション誌とPLEASEは同じ土俵にいない、とも言えそうだ。

海外メゾンが認める日本のモード誌に

vol.14から巻末で始まった、その時々に気になった森羅万象を紹介するスピンオフコーナー「THIS」。竹中直人さんが「CHRISTPHER NEMETH」を尋ねる記事のほか、「THE NORTH FACE」のリサイクルダウン、東中野のパブが始めたイングリッシュブレックファーストなどバラエティに飛んだ内容。

 少し話はズレるが、基本的に雑誌がブランドの新作アイテムを掲載しようと考えたら、まずはブランドに掲載許可を得なければならない。そしてOKをもらってから商品を借りて撮影という流れになるのだが、ハイブランドは露出する媒体を選んでいて、信用のおける媒体とみなされない限り掲載が認められない。読者の皆さんは気にも留めないかもしれないが、実は雑誌に対するブランドのジャッジは想像以上に厳しかったりする。

 そんな中でPLEASEはどうだろう。業界目線で見ると、創刊当時からCOMME des GARÇONSを取り扱っていたことは驚くべき事だし、昔から名前を挙げたら枚挙にいとまがないほどのメゾンブランドが登場する。その事実はPLEASEがファッション界で高く評価されている証拠であり、雑誌の器。そしてマガジニスト北原徹への評価でもある。

 モードに元気がないと言われる時代だが、“挑戦的な気鋭の雑誌を評価する”目を持ったメゾンブランドが沢山あるという事実を考えると、やはり前衛的な空気感は未だ健在なのだろう。PLEASEがファッションの自由さを発信することが起爆剤となって、モードを再興させてくれる日は近いのかもしれない。

Infomation

「PLEASE」 vol.15 ¥1,430
Web:https://www.please-tokyo.com/
Instagram:@please_tokyo

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