屋久島からお届けする「SAUNTER Magazine」は、旅のドキュメントを綴る雑誌

雑誌を通して旅先を感じさせる


 このご時世どこからでも編集作業はできるし、自分たちが主導で動けるならば、何も都市部にいる必要もない。
 出版産業は都市生活に近いところで発生したこともあり、実際そのしがらみを捨てることは難しいものの、一部の気鋭出版社は地方に本拠地を置きながら着実にアウトプットを行なっている。

 2019年の創刊以来、年1〜2回のペースで刊行する雑誌「SAUNTER Magazine」。こちらは屋久島の出版社「キルティブックス」が発行しているもので、屋久島のみならず、国内外のローカルに根付く文化や自然をドキュメンタリー的に紹介。洋書のような余裕のある美しいエディトリアルデザインと軽快な文章によって、ゆったりとした読書の時間を提供してくれる。

 編集長の国本真治さんは、ファッション誌とカルチャー誌でキャリアを重ねたのち、屋久島で唯一の出版社を立ち上げた人物。自ら旅をするように東京と屋久島の二拠点生活を続けながら、この雑誌を制作しているようだ。

vol.3の表紙はガジュマルの森に佇むコムアイ

巻頭は水曜日のカンパネラのコムアイさんとの屋久島ストーリー。フォトグラファーの中村力也さんが撮影したポートレートは、島内の自然と光、コムアイさんを包む空気感をそのまま閉じ込めたかのよう。

 毎号明確なテーマを持たせて編集を行っている同誌だが、今回は「音楽で繋がる旅」を軸に構成。誌面では、数年前から屋久島に足を運んでは、音楽的なインスピレーションを得ているというコムアイさんを取材。現地を何度も訪れたことで変わり始めた、彼女の中での“屋久島らしさ”。伝統音楽を求めて旅をする彼女が、腰を据えて関わり始めた屋久島民謡の話などが、SAUNTERのムードで語られている。

地元の人は誰でも名前を知っているけれど、メロディを知る人がいなかったという、幻の屋久島民謡「まつばんだ」。「山岳信仰を背景に持つ不思議な歌であると共に、音程の上下が激しく歌うのが難しいとされる」とのこと。

 ページをめくると続いて登場するのは、まぼろしの古謡「まつばんだ」の歌い手である緒方麗さん。誌面では、屋久島は琉球文化圏外に位置する島なのにも関わらず、まつばんだは琉球音階で構成されていること。奄美諸島のように過去の記録は残っていないことが多いが、その歌は人づてに伝承され、かろうじて生き延びてきたことなど。まだまだ謎の多い伝統の復興に取り組む人々を訪ね、その活動を見守るようにレポートしている。

 どうしても屋久島というと世界遺産である太古の自然に目を奪われがちだが、美しい写真と共に彼の地で育まれて受け継がれてきた文化や、神秘の島といわれる所以を紐解いていていく。

世界に誇る日本の島から、グローバルに発信

屋久島に興味を持つ外国人にも情報を伝えたいという狙いがあるのか、テキストは英語と日本語のバイリンガルでの構成。国外にもSAUNTERが編集した情報を伝える。

 他方では、テーマに合わせてたコラムを挟みながら、島の話だけではなく海外取材記事も掲載。「音楽で世界と繋がる」と題された後半のパートでは二つのフォトストーリーを展開し、約50ページにわたって各国に根付く人と音楽の関わりに切り込んでいた。一つは南インド在住経験のある写真家・井生 明さんによる「カルナータカ音楽」に込められた祈りについての話。もう一つは世界各国で開かれるレイヴパーティー、音楽フェスを巡った写真家の長谷川祐也さんのフォトエッセイだ。

 そのほかにも有名アーティストの寄稿文も掲載。雑誌の冒頭で編集長が書いていた「この世界を救うのはワクチンではなく音楽ではないか、と本気で思っている。少なくとも僕自身は、音楽によって人と繋がり、新しい何かが生まれることを実感した」という言葉は、この一冊を読み終えた人なら素直に納得できる。

 次号のSAUNTER Magazine vol.4は、2021年9月1日刊行予定。特集を「食で繋がる旅」とし、今号に負けず劣らず豪華なゲストを迎えているという。

Infomation

「SAUNTER Magazine」vol.3 ¥2,090

Web:https://kiltyinc.com/saunter/
Instagram:@sauntermag.japan
Twitter:@sauntermag

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