昭和の家庭用製麺機ブームも作った同人誌「趣味の製麺」

自家製麺ファンに贈る製麺機専門誌、待望の新刊

「趣味の製麺」は、“とって食べる”系のアウトドア・食べ物ライターとして「デイリーポータルZ」や「みんなのごはん」に記事を書いている玉置標本さん(サークル:私的標本)が編集長を務める同人誌。家庭用製麺機の専門雑誌として2012年に創刊し、不定期だが9号(別冊を含め製麺関係では12冊)も発行されてきた。

 明治に発明された業務用製麺機をルーツに持ち、戦後の米不足だった時代に大ヒットした鋳物の家庭用製麺機に今再びフォーカスを当て、消えつつある家庭内製麺文化を探求していく。

 その存在感は唯一無二にしてセンセーショナルで、趣味の製麺が発行されて以降ヴィンテージ製麺機の市場価格が高騰したとも言われている。また、評論・情報ジャンルの同人誌界隈ではアカデミー賞受賞並みの栄誉とされる、タモリ倶楽部の出演も果たすなど、玉置標本さんは名実共にヴィンテージ製麺機の第一人者として業界を率いているのだ。

 今回ご紹介するのは、2年半の充電期間を経て(その間は別冊を発行)2021年5月に発行されたvol.9。製麺機というハード面においても、また製麺というソフト面においても、どちらも楽しんで読み進められる記事が充実しており、製麺機ファンがなら歓喜し、初心者が置いてけぼりになる濃厚な一冊に仕上がっている。

圧倒的な存在感を美しいヴィジュアルで図解

大きなハンドルと幅広のローラー。小野式製麺機の中でもサイズが大きく、業務用でも使われたという3号型の前期と後期モデルを徹底比較。

 創刊号から毎回モデルを変えながら続いている人気企画が、ヴィンテージ鋳物製麺機のグラビアページ。フォトグラファー オカダタカオさん撮影によるインパクトのある写真は、製麺機の持つ無骨さと繊細さを切り取り、読者の心と目を惹きつける。

 また、このグラビアをより有意義なものにしているのは、現在製麺機を約40台保有、日本一の製麺機コレクターでもある玉置標本さんの細やかな解説だろう。彼の知識が事細かに披露された誌面は、製麺機ファンにとってはこれ以上のものはない解説資料としての意味も持つ。

 まさに製麺機のモノとしての価値や魅力が凝縮されている誌面は、製麺機に触れたことのない読者の心を鷲掴みにするのだ。

バラエティ豊かな寄稿記事にも注目

写真と文で構成された寄稿記事以外にも、商業誌や同人誌などで活躍するグルメマンガ家陣によるマンガルポも掲載。

 誰もが思いつかない企画を発想し、ウィットに富んだ文章でアウトプットする玉置標本さんの記事が魅力の同誌だが、それ以外のアマチュア製麺家やグルメライター、マンガ家などのゲストによる寄稿記事も非常に興味をそそられる。その中には製麺機に関する実験的なコラムや、製麺会などの様子を綴ったユニークな記事もあり、過去にはシュレッダーで冷やし中華を作るなんて記事も。いやはや、いい大人が真面目に不真面目なことをしているのがから、これを普通のグルメ本だと思って読んだら麺(面)食らってしまうことだろう。

 それはさておき、うどん、そうめん、そば、ラーメン、パスタはもちろん、世界中や日本のローカル食文化に「製麺」というキーワードとともに真面目に切り込んでいく姿は、世界に誇れるグルメ雑誌だと誇っていい。それに、麺料理を作るだけに留まらず、餃子の皮やちくわぶ、ピザやお菓子作りと、トコトン製麺機の可能性を追求する姿勢はとってもクリエイティブ。まだまだこんなもんじゃない! と、製麺機の潜在能力をこれでもかと見せつけてくれているから面白い。

ベールに包まれた製麺機ヒストリーを解き明かす

「これぞ『趣味の製麺』を発行し続けたことへの最上のご褒美である」と玉置標本さんが興奮した、小野機械製造所の関係者インタビュー。

 玉置さんがコレクション蒐集や取材を進める中で、少しずつ解き明かされていく謎、そして新たに生まれる疑問や憶測。趣味の製麺は、時として製麺機学術誌の顔も見せてくるから興味深い。

 今号では、残念ながら閉業を余儀なくされ、伝説と化した「小野機械製造所」の最後の作り手にインタビューを敢行。家庭用製麺機のベストセラーであった「小野式製麺機」の知られざるエピソードが語られた、資料性の高い号となった。

 また、これまで主に取り上げてきた「ロール式」の製麺機ではない、「押出式」製麺の世界も大特集。佐渡の一部の地域で栄えたそば文化を取材したり、玉置標本さん自身が麺やスープ作りに奮闘する姿も掲載されており、情熱を持って真摯に雑誌作りに携わっていることが伝わってくる。

 どこか懐かしい昭和の製麺機、その新たな魅力を令和の時代に切り開く。趣味の製麺は、過去の食文化を読み解き、未来に繋げるパワーを秘めている。

【Infomation】

「趣味の製麺」 vol.9 ¥1,650 (書店委託販売価格)
Web:https://www.seimen.club/
Twitter:@hyouhon

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