都会の路地裏に佇む、本と人をつなぐ場所
「SUNNY BOY BOOKS」

デジタル化の波や若者の活字離れが進み、もはや斜陽産業と呼ばれて久しい出版業界。またネット通販の普及によって街中の書店も次々と消えていく―――。しかし、その一方で店主の個性が如何なく反映された個性的な“独立系書店”が各地で産声を上げ始めた。

店主が試行錯誤を繰り返して築いた小さな書店

 2013年、東京・学芸大学駅から徒歩4分ほどの住宅街の一角にオープンした「SUNNY BOY BOOKS」も、店主の髙橋和也さんの想いが詰まった独立系書店の1つだ。わずか5坪という限られた店内には、「青山ブックセンター六本木」で選書やフェアなどを担当してきた髙橋さんがセレクトした古書を中心に、小出版社の新刊やリトルプレスなどさまざまなジャンルの本が所狭しに並ぶ。

 また壁の一部には2週間に1度は変わるというイラストレーターなどの作家たちによる作品が展示されており、さながら小さなギャラリーのような趣も合わせ持つ。個性豊かな独立系書店が多い中、SUNNY BOY BOOKSも独自の世界観を作り上げ、オープン以降、多くの本好きを魅了している。

オープンから8年、髙橋さんが試行錯誤と繰り返しながら築き上げたわずか5坪の店は、店主の想いと人柄が反映された空間だ。その世界観に惹かれて足しげく通う常連客も多く、路地裏に佇む小さな街の本屋が大切な居場所になっている。

 SUNNY BOY BOOKSはもともと古書を中心にスタートした書店で、新刊も少なくZINEやリトルプレスの取り扱いも一部行なっていた程度。しかし現在は自分たちで神保町の書店卸などに通って、選書した小・中規模の出版社の新刊が3割ほどを占め、リトルプレスを扱う量も初めのころと比べてその3倍ほどになったという。

 リトルプレスの取り扱い数が増えた大きな理由は、店内で行われる展示イベントの影響が大きいそうだ。というのも、店舗に置かれたリトルプレスは、展示イベントと連動して作られた「作品集」のようなものがほとんどで、作り手との関係性を何よりも重視する髙橋さんの意向が大きく反映されている。

 もちろん、それ以外のリトルプレスも置かれてはいるが、店舗スペースに余裕がないことから、その数はかなり限られる。髙橋さんにその判断基準を聞いてみると「それは作り手のエネルギーとセンス」と答えてくれた。

店頭に並ぶリトルプレスの多くは、展示イベントに参加した作家たちの「作品集」のようなもの。作家たちの作品に対する想いやメッセージが汲み取れる渾身のリトルプレスが並ぶ。

新たなメンバーとともに第2章がスタート

 そんなSUNNY BOY BOOKSだが、今年1月に大きく体制が変わることになった。オープン以降、1人で店舗運営に携わってきた髙橋さんが沖縄に移住することになり、店長として古くからの友人である大川愛さんが就任したのだ。

 さらに展示イベントの企画・運営のサポートメンバーとして、イベント、展示企画をする「山ト波」を主宰する鷹取愛さんが新たに加わった。もちろん、髙橋さんはこれまで通り店舗運営に携わることに変わりはないが、今後は沖縄で新たなお店のオープンも視野にいれて活動していくという。

左上)書籍のほか、雑貨などの販売も。オリジナルトートバッグも人気。左下)今、何かと注目を集めているジェンダー問題。同店では以前から力を入れていたジャンルで、店内には関連書籍も多数。右)店舗の一部を利用して2週間に1度、作家たちの展示イベントを行っている。まだオープンして間もないころは、展示イベントをきっかけに来店するお客さんも多くいたという。

 髙橋さんとは青山ブックセンター時代の元同僚という間柄の新店長・大川さんは、SUNNY BOY BOOKSのオープン以降は友人として髙橋さんの取り組みを見守ってきた一人だ。大川さんも髙橋さんに負けず、いつも身近に本があった。髙橋さんが丁寧に作り上げた同店の世界観に通じるものも多く、早くも新しい環境に馴染んでいることがわかる。そんな大川さんに最近のリトルプレスの傾向を聞いてみると、あくまで個人の所感として以下のように話してくれた。

「個人単位で本を作っている人は増えたような印象はあります。特に若い人に多いような気がします。もしかしたら、SNSが普及して個人の考えや想い、好きなことを発信しやすくなったこと、発信することにためらいがなくなったことが大きいのかもしれません。その延長としてのZINEなどがあるのかなと思います。中には初めて作ったの?と驚くような出来栄えのものもあったりとクオリティも上がっているので、取り扱う書店も増えているのでしょうね」

 実際同店でもリトルプレスの問い合わせも多いそうで、紙媒体として手に残る形で発信したいと思う若い人たちがいることは嬉しいと大川さんは話す。

 また、実店舗と並行してネット通販にも力を入れているが、その中でリトルプレスの売り上げは大きいという。制作部数そのものが少ないこともあるが、リトルプレスを取り扱う書店の多くが都心部に集中しているため、欲しいものがあっても地方ではなかなか手に入らない。それもあってまとめて購入するお客さんもいるようだ。

 それでは、大川さんにお店の中でおすすめのリトルプレスをピックアップしてもらおう。

著者のイム・ジーナさんはもともとSUNNY BOY BOOKSのお客さん。韓国語と日本語が併記されたZINEは、20代、30代の女性たちに人気があるそう。左)「この曲の一部始終」(1100円)、右)「実はストレッチング」(660円)

左)今、一番人気は『ナリワイをつくる』『フルサトをつくる』などで知られる伊藤洋志さんと「モンゴル武者修行」の参加有志たちによるZINE「羊と自分が同じ直線上にいる」(1200円)だそう。実際にモンゴルで過ごした日々の体験や、その後の生活や人生観の変化について綴られた読み応えのある1冊。右)YuzuさんとKahoさんの女子2人がシベリア鉄道に乗ってモスクワに着き、その後、フィンランドやバルト三国、ドイツへと移動し、最終目的地であるフランスまでの行程を綴った53日間の旅行記。そのクオリティはとても高く、旅の様子が楽しめるだけではなく、旅のハウツーまでしっかり網羅した優れもの。「53days」(700円)

「本を売る」と「本を作る」
独立系出版社として二足の草鞋を履く

 もう1つ、SUNNY BOY BOOKSの大きな特徴といえるのが、独自の制作部門を構えていることだ。「SUNNY BOY THINGS」と名付けられたチームは、髙橋さんとデザイナーの平本祐子さん、山中健雄さんの3人で結成されており、自ら企画したものを独自で発行する独立系出版社としての顔も持つ。

 これまでSUNNY BOY THINGSが手掛けたオリジナル制作物は8冊。アーティストの作品集や絵本などのほか、1周年、2周年記念に発行してきた「SUNNY」がある。

 昨年12月に発行したSUNNYの最新号は周年記念ではなく、髙橋さんの沖縄移住が決まり制作した「特別号」。髙橋さんが日々お店を開ける中で感じた「あなた」と「わたし」をテーマに、これまでSUNNY BOY BOOKSに関わってきた小説家やエッセイスト、イラストレーターや書店店主たちがそれぞれの想いを文や絵で綴ったものだ。これを読むと、髙橋さんが書店を運営していく中で、作家たちとの関係も大事にしてきたことがよくわかる。


2020年12月に発行した「SUNNY 特別号」。「あなたとわたし」というテーマをもとに、これまで同店に関わった10名の方たちがそれぞれの想いを綴った1冊。2013年にオープンした同店の現在までの記録といっても過言ではない充実した内容となっている。「SUNNY 特別号 あなたとわたし」(990円)
イラストレーターのfancomiさんがSUNNY BOY BOOKSでの展示イベントの際に描き下ろした作品を3つの物語にまとめた絵本。ページをめくるたびにほのぼのとした気持ちになれる。「SMALL STORY」(2200円)

「髙橋は作家さんとの関わりをとても大切にしています。作家さんとお話をしながら、主人公が生きてきた背景や、その周囲の環境や人との関わりまでストーリーを考えていきます。だから、ときには別の物語に派生していくこともあったり」

 作家との制作はあまり気負わず、フランクに。それがSUNNY BOY BOOKSのオリジナルの魅力でもあるように思う。

 同店の第2章は始まったばかり。髙橋さんが培ってきたDNAと、大川さん、鷹取さんのエッセンスがどんな化学反応を引き起こすのか、今後の展開にますます期待したい。

Infomation

「SUNNY BOY BOOKS」

住所:東京都目黒区鷹番2-14-15 
営業時間:12:00-20:00、月曜・金曜
URL:https://www.sunnyboybooks.net/
Instagram:@sunnyboybooks

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